中国ものづくり仰天話(第1話 -4)

先回までは、この得体のしれない成形メーカーで

今回の製品の部品を生産することはできない、

というところまでお話しました。

 

取れる手段は金型移管しかありません。

つまり、金型を信頼できる別の成形メーカーに移して、

そこで成形をするということです。

 

しかし、これはそう簡単にはできることではありません。

理由は、その金型は得体のしれない成形メーカーの

成形機の仕様に合わせて作ってあるからです。

 

基本、成形機の構造は標準化されていますので、

金型を移管しても取り付かないということはないのですが、

やはり金型メーカー同士の設計ポリシーがあって、

そう簡単には、新しい成形メーカーの成形機には

取り付かなかったのです。

 

また、今回の製品の量産までの日程はもちろん決まっています。

そして金型が既に出来上がっているということは、

量産開始までは、既に1ヶ月程度しかないということです。

この1ヶ月の予定はもちろんぎっしり埋まっています。

 

金型移管の日程の打ち合わせになりました。

移管には金型の輸送の時間も合わせて最低5日は

必要ということになりました。

よって、この日程を量産開始までの1ヶ月の中に詰め込むことになるのです。

もう、なんとか詰め込むしかありません。

 

一番の問題は、移管前の得体のしれない成形メーカーと

移管後の新しい成形メーカーの担当者同士の話し合いです。

これはもう尋常の打ち合わせなどというものではありませんでした。

大人の大喧嘩です。それも中国人同士です。とにかく大声です。

1つの大きめの会議室の中で、お互いの成形メーカーの担当者が3人ずつ、

そして新しい成形メーカーの営業兼通訳、

私と日本からの出張者、全部でおおよそ10人くらいの

打ち合わせでした。

 

打ち合わせと言っても、立ったり座ったり、

現場に行ったり、電話でいなくなったり、

怒って勝手に会社の外に行ってしまったり、

ほとんど全員が揃うことなどない、

そしても揃ったとしても、私の理解できない言葉(上海語)で

大声で喧嘩越しに言いあったり、という状況でした。

 

私と日本からの出張者にとっては、

金型の技術的にかなり深い部分の内容の議論であり、

また、全く理解できない上海語で、

営業兼通訳の方もなかなか理解ができない、

そのような議論をほぼ3日連続でしていました。

 

3日連続と行っても、打ち合わせに2時間遅れたり、

午前に来ると行って夕方に来たりと、

新しい成形メーカーの営業兼通訳の女性が泣いてしまったくらい

まともに打ち合わせが進まない状況でした。

 

一時はもうどうもこうも作業が進展せず、

ソニーの資材の人に来てもらって、

解決を図ってもらおうかとしたのですが、

そもそもこの人が、今回の金型移管の原因を作った人です。

頼りになるはずもありません。

 

結局一番の問題点は、ロケートピンの方式に関しての意見の相違と、

ガイドピンが金型の重さに対して十分な強度がない、

そしてそれに起因して、ガイドブッシュの破損という

問題でした。

 

ロケートピンに関しては、新しい成形メーカーの

方式に沿うことになり(当たり前ですが)

ガイドブッシュは新しいものを購入して、

なんとか解決して行ったのでした。

 

結局、丸々一週間かかってこの問題は解決し、

金型移管は無事完了しました。

 

私と日本人出張者は特に何をした訳ではないのですが、

とにかくヒヤヒヤものの一週間でした。