中国ものづくり仰天話(第2話-2)

先回のお話では、

成形担当が勝手に金型担当に金型変更を指示したところまで、

お伝えしました。

今回は、何故このようなことが発生してしまったかを

お伝えします。

 

まず基本的なルールに関してお伝えします。

金型は一般的に設計者の会社の資産です。

PCのマウスくらいの大きさの金型で

2〜3百万円の金型費となります。

この金型費用は設計者の会社が

金型メーカーに支払うのです。

つまり、金型は設計者の会社のもので、

その変更や修正には設計者の会社の承諾が必要となります。

 

設計者の都合で金型の変更(部品形状の変更)が発生した場合は、

設計者が金型変更連絡書を発行して、

成形メーカーに金型変更を依頼します。

とても普通ですね。

ちなみに、この話の前提として、

成形メーカーと金型メーカーが同じ会社とします。

 

でももし、成形メーカーが成形上の不具合を発見して、

金型を修正(部品形状も変わる)する場合は

どうすれば良いでしょうか。

もちろん、勝手に変更することはできません。

部品の形状が変更になってしまい、

製品に不具合があっては困ります。

この場合は、成形メーカーが変更希望を設計者に伝えて、

設計者がその変更を金型変更連絡書をもって

正式に連絡する形になります。

金型は設計者の会社のものなので、

これが正しいルールになります。

 

今回の事件の問題は、

成形メーカーが成形上の不具合を発見して、

設計者に連絡と承諾なしに勝手に金型を変更してしまったことでした。

この変更によって部品自体は、

あるリブの厚みが0.5mm厚くなるというものです。

見た目はあまり変わらないので、

「とっても些細な変更」と成形担当は判断したのでしょう。

でも、設計上ではこの0.5mmの増した厚みが、

部品同士の嵌合に不具合を生じさせていたのでした。

形状の詳細は説明が長くなってしまうので、

割愛いたします。

 

 「とっても些細な変更」と成形担当者は判断し、

さらに「きっと問題ない」から設計者に伝える必要はない、

と判断しました。

ここに中国人の国民性が大きく影響してくるのです。

それは次の2つです。

 

・強い自己判断

・希望的観測

 

「とっても些細な変更」は、

0.5mmという寸法が製品の大きさからみてとても小さい寸法であり、

もしくは位置的に製品には影響を及ぼさない、

という成形担当のみの「強い自己判断」だったのです。

そして「きっと問題ないは」は、

その変更は些細なので製品にはきっと影響を及ぼさない、

だから設計者に連絡する必要はない、

という希望的観測だったのです。

 

これら2つは、中国人の国民性を的確に表す典型的な言葉です。

これらの国民性が理解できず、

中国人に改善を望んでもそれは無理なことです。

では、私達はどう対処すれば良いのでしょうか。

 

 私が心がけていることは、細かなルール作りです。

「強い自己判断」は判断基準を、

「希望的観測」は予測を中国人本人に任せていたことが

いけなかったのです。

中国人と私達日本人は別の国の別の環境で育ちました。

よってこれらの「判断基準」と「予測」が違っても

当たり前なのです。私達の要望を通したいのなら、

次のようにそれらのルール作りをする必要があったのでした。

 

・とっても些細な変更 → 全ての変更は製品に影響する

・きっと問題ないは → 問題(影響度合い)は設計者が判断する

 

先述した金型変更連絡書は、

本当はしっかりこのルールに則ってはいるはずなのですが、

それが末端の担当者まで浸透していなかったことが

問題でもありました。

 

サンプルの発送、見積もりの承認など、

頻度よく行われることに関しては、

しっかりルールを作成しておきましょう。

中国ものづくり仰天話(第2話 -1)

今回は金型が勝手に変更されてしまったお話をしたいと思います。

 

私はプロジェクターの設計者でした。

自分が設計に関わった製品の量産が開始され、

1ヶ月ほどしたある日のことです。

製造ラインから連絡が入りました。

 

プロジェクターのトップカバーが閉まらなく、

製品が組み立てられないということでした。

私はこの頃中国に駐在していて、

プロジェクターの製造工場内に

設計の事務所を構えていました。

よって製造ラインは同じ工場内なので、

歩いて2〜3分のところにありました。

 

急いで製造ラインに行きました。

そのときの私の予想では、

トップカバーのちょっとした反りやバリなどで、

単に嵌合しにくくなっている程度と想像していました。

 

製造ラインに到着しました。

確かにトップカバーは完全に閉まりません。

嵌合が悪い、というような問題ではなく、

プロジェクターの内部部品が

トップカバーの裏側に当たってしまって、

これ以上閉まらずトップカバーが浮いた

状態になっていました。

 

それならば、内部部品の組み立て方に

問題があるのではないかと思い、

内部部品の確認を始めました。

 

内部部品でトップカバーに当たっている

部品はすぐに分かり、

その部品は2部品で構成されていました。

 

では、その2部品の嵌合状態が悪いのではないかと思い、

さらによく見てみると、

それら2部品はプロジェクターの

高さ方向に高くなる方向で

組み上がっているようでした。

 

大体の状況は把握できたので、

まだ組み上がっていないそれら2部品を

製造ラインから借用して嵌合を

確認してみることにしました。

 

これら2部品の説明をします。

これら2部品とはプロジェクターのランプと

その周辺部品を冷却する送風ダクトのことです。

 

ダクトの端はファンが連結されています。

プロジェクターのランプは、

1000度近くまで温度が上昇します。

ランプは、1000度以下の一定の温度で

最も効率よく点灯します。

それ以上、以下の温度ではランプの寿命が

短くなってしまうので、

常に1000度以下のある一定の温度に

保つ必要があるのです。

 

また、ランプの周辺部品もこのランプの

熱に煽られて高温になります。

ランプに最も近い部品はアルミのダイキャストや

板金で設計しており、

高温になっても問題にはならないのですが、

その外側の部品は耐熱樹脂で設計されています。

耐熱樹脂といっても250度くらいが限界です。

 

また、さらにその周辺は普通の樹脂部品です。

耐熱温度は60〜80度くらいです。

つまり、ファンから発生する風をランプ周辺に送風して、

ランプと樹脂部品を冷却する送風ダクトは

とても大切な役割を果たしている部品なのです。

 

これら2部品で構成されたダクトが、

明らかに高さ方向に高くなる方向でしか

嵌合ができない状態になっていることが、

2部品を単品同士を組み付けることによって

だいたい分かりました。

 

でも、ダクトの形状は何も変更はしていません。

部品の見た目も何も変わりません。

成形条件の何かが変更されてしまって、

見た目では判断できないレベルで形状が

変わってしまっているのか、

またバリなどの突起が発生してしまい、

嵌合しにくくなっているのか、

よく分かりませんでした。

 

いずれにせよ、2部品の嵌合部に何か変更が

あったことが推測できたので、

早速その部品の成形メーカーに行って、

2部品のどの箇所の寸法が変わったのか、

また、なぜ変わってしまったのか確認することにしました。

 

これら2部品を至急元の嵌合状態に戻さないと、

生産はストップしたままです。

もし、嵌合状態に問題のない部品が

この成形メーカーの在庫で見つかれば、

それを持って帰って生産を再開することもできます。

製造ラインの生産は長い時間止めることはできません。

急ぎの対策が必要でした。

 

プロジェクターの製造ラインの部品、

これらの部品の承認サンプル、

成形メーカーでの現在成形中の部品を比較検討して、

それらの寸法の違いを確認しました。

 

ところが、成形メーカーの成形担当者も立ち会い、

その人の証言もあり以外に簡単に原因は分かったのでした。

 

成形担当者が嵌合部分の寸法を変更していたのです。

もちろん、設計者の私たちには無断での変更です。

こんなことは、日本ではあり得ないです。

なぜ、この成形担当者は金型を

変更してしまったのでしょうか。

正確には、なぜ彼は金型担当に金型変更の

指示を出したのでしょうか?

 

この続きは次回お話しさせていただきます。

この金型が勝手に変更された理由を

理解することによって、

中国人の国民性を垣間見ることができます。

そして、これからこのような事故を防ぐ方法を

学ぶこともできます。

 

では是非次回を、お楽しみください。

中国ものづくり仰天話(第1話 -4)

先回までは、この得体のしれない成形メーカーで

今回の製品の部品を生産することはできない、

というところまでお話しました。

 

取れる手段は金型移管しかありません。

つまり、金型を信頼できる別の成形メーカーに移して、

そこで成形をするということです。

 

しかし、これはそう簡単にはできることではありません。

理由は、その金型は得体のしれない成形メーカーの

成形機の仕様に合わせて作ってあるからです。

 

基本、成形機の構造は標準化されていますので、

金型を移管しても取り付かないということはないのですが、

やはり金型メーカー同士の設計ポリシーがあって、

そう簡単には、新しい成形メーカーの成形機には

取り付かなかったのです。

 

また、今回の製品の量産までの日程はもちろん決まっています。

そして金型が既に出来上がっているということは、

量産開始までは、既に1ヶ月程度しかないということです。

この1ヶ月の予定はもちろんぎっしり埋まっています。

 

金型移管の日程の打ち合わせになりました。

移管には金型の輸送の時間も合わせて最低5日は

必要ということになりました。

よって、この日程を量産開始までの1ヶ月の中に詰め込むことになるのです。

もう、なんとか詰め込むしかありません。

 

一番の問題は、移管前の得体のしれない成形メーカーと

移管後の新しい成形メーカーの担当者同士の話し合いです。

これはもう尋常の打ち合わせなどというものではありませんでした。

大人の大喧嘩です。それも中国人同士です。とにかく大声です。

1つの大きめの会議室の中で、お互いの成形メーカーの担当者が3人ずつ、

そして新しい成形メーカーの営業兼通訳、

私と日本からの出張者、全部でおおよそ10人くらいの

打ち合わせでした。

 

打ち合わせと言っても、立ったり座ったり、

現場に行ったり、電話でいなくなったり、

怒って勝手に会社の外に行ってしまったり、

ほとんど全員が揃うことなどない、

そしても揃ったとしても、私の理解できない言葉(上海語)で

大声で喧嘩越しに言いあったり、という状況でした。

 

私と日本からの出張者にとっては、

金型の技術的にかなり深い部分の内容の議論であり、

また、全く理解できない上海語で、

営業兼通訳の方もなかなか理解ができない、

そのような議論をほぼ3日連続でしていました。

 

3日連続と行っても、打ち合わせに2時間遅れたり、

午前に来ると行って夕方に来たりと、

新しい成形メーカーの営業兼通訳の女性が泣いてしまったくらい

まともに打ち合わせが進まない状況でした。

 

一時はもうどうもこうも作業が進展せず、

ソニーの資材の人に来てもらって、

解決を図ってもらおうかとしたのですが、

そもそもこの人が、今回の金型移管の原因を作った人です。

頼りになるはずもありません。

 

結局一番の問題点は、ロケートピンの方式に関しての意見の相違と、

ガイドピンが金型の重さに対して十分な強度がない、

そしてそれに起因して、ガイドブッシュの破損という

問題でした。

 

ロケートピンに関しては、新しい成形メーカーの

方式に沿うことになり(当たり前ですが)

ガイドブッシュは新しいものを購入して、

なんとか解決して行ったのでした。

 

結局、丸々一週間かかってこの問題は解決し、

金型移管は無事完了しました。

 

私と日本人出張者は特に何をした訳ではないのですが、

とにかくヒヤヒヤものの一週間でした。

 

 

中国ものづくり仰天話(第1話 -3)

先回のコラムでは、得体のしれない成形メーカーで

成形をしなければならなくなりましたが、

その成形メーカーはULの認定工場ではないため、

アメリカでの販売する今回のモデルの

部品は成形することができないことが分かり、

途方にくれているところまで、お伝えしました。

 

このようなことは、もちろん前代未聞の事件です。

まず1番に疑問になったことは、

なぜ800トンの成形機の持っていないのに、

この最初の成形メーカーに発注が決まったか

ということでした。

 

資材の中国人の担当者にお話に行きました。

回答は最初の成形メーカー電話で聞いたら

「800トンの成形機がある。」と言われたから、

ということでした。

 

資材は設計者が図面を持ってきたら、

適切なメーカーに発注をすることが、

非常に重要な仕事の一つです。

 

つまり、自分の会社が部品を発注する成形メーカーの

持っている成形機の大きさを把握していないということは、

資材としては全くの失格なのです。

 

これは資材の日本人の部長を巻き込んでの事件に

発展して行きました。

この資材の中国人の担当はこの会社の資材部に

勤務し30年以上になる超ベテランです。

知らないはずはないのです。

 

私はこの事件の原因を深く掘り下げ

たかったのですが、日本人の部長としては、

それをあまり望んでいませんでした。

つまり、これが中国の闇の部分です。

きっと意図的に発注がなされたのでしょう。

この最初の成形メーカーに発注をしたい、

何らかの理由があったということです。

 

しかし、中国人の資材担当はULの知識まではありません。

本当は必要な知識なのですが、、、

よって、成形メーカーを変更しなければ

ならないところまでこの問題が発展するとは、

思ってもみなかったのだと思います。

最終的には得体のしれない成形メーカーで、

我々が渋々成形をすることになると、

目論んでいたのだと思います。

資材の担当者としても、

この行為は大失敗だったのです。

 

さて次回からは、成形メーカーの変更です。

ここでも、すったもんだの事件が発生します。

 

では次回をお楽しみください。

 

 

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中国ものづくり仰天話(第1話 -2)

私は日本から来た出張者と同行しています。

出張者の日程も限られています。

今更どうしようもありません。

 

結局、ソニーの発注した成形メーカーとは全く異なる、

ソニー側としては何の審査もしていない、

得体のしれない成形メーカーと取引をすることになるわけです。

 

ソニーの審査とは次の3つです。

・財務的な審査

・環境的な審査

・技術、品質的な審査

この3つです。

 

財務的な審査は資材が、環境的な審査は品証、

技術、品質的な審査は品証と設計が行います。

一般的に1ヵ月以上はかかります。

これらの審査を受け、取引するに十分な実力を持っている、

と判断された上で、取引開始となるわけです。

 

今回の場合は、ソニーが最初に依頼した成形メーカーが

窓口になり部品を購入することになるので、

ルール的には取引可能です。

 

しかし、実務上は全くのNGです。

最初に依頼した成形メーカーは商社ではありませんが、

今回の場合は商社として機能することになります。

 

この、商社経由で部品を購入するということは、

中国では非常に危険な部品メーカーとの関わりです。

 

ご関心がお有りでしたら、私の研修やコンサルでも

ご紹介させて頂いています。

是非、ご参照ください。

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話が少しそれましたが、

ルール上は問題がないとなれば、

日程的にも、このまま進めるしかありません。

 

しかし、この得体のしれない成形メーカーでこのまま進める

ことによるリスクに関して話し合いをしているうちに、

大問題が有ることが分かりました。

 

今回の製品は医療用モデルです。

医療用モデルの樹脂成形の部品にはULのモルダーマーク

が必要であったのです。そしてそのモルダーマークには、

実際に成形している会社名の記載が必要なのでした。

 

つまり、ULで認証された成形メーカーが成形した、

品質的に問題のない部品であることを証明する、

プラスチック(樹脂)部品の裏側の彫刻が必要なのです。

部品上には凸の線で描いたマークとなります。

 

ULとは、世界的に製品や部品の安全性を試験・評価して認証を行う機関です。

アメリカ国内で製品を販売する場合は、この認証が必須になります。

 

この得体のしれない成形メーカーは、

もちろんULの認証を受けていません。

 

つまり、この成形メーカーの部品でソニーの製品は

組み立てられないということです。

 

困りました。

本当に困りました。

日程は限られています。

 

 

続きは次回にお伝えします。

 

ここまでお読み頂き、ありがとうございました。

 

次回をお楽しみください。

 

中国モノづくり仰天話(第1話)

私がソニー在籍時に、

モニターの設計業務で中国に駐在し、

日本の設計者と中国の部品メーカーの

橋渡しの仕事をしていたときのお話です。

 

金型打ち合わせを1ヵ月以上前に完了し、

今日は1stトライの日です。

日本からの設計者が上海に訪れ、

金型打ち合わせをした成形メーカーに

一緒に行くことになっていました。

 

今回成形している工場は、いつもの場所とは違う、

ということだったので、その成形メーカーとは

別の場所にある工場に連れて行かれました。

車で1時間半くらいの全く別の場所でした。

 

私と出張者を乗せた車が、その別の工場に到着しました。

工場の正門を通過しようとしたところ、

「ふっ、あれっ?」と思ったのでした。

 

その頃の私は、中国駐在4年目に入ろうとしていました。

中国にも慣れ、中国の怪しい雰囲気は感じ取れるように

なっていました。

 

「(正門のプレートの)会社名が違う、、、」と思いました。

工場はいろいろな企業が集合している場合もあるので、

正門のプレートの名前が、見知らぬ名前の場合はよくあることです。

 

工場の建物の中に入りました。

受付ロビーのテーブルに女性が1人座っています。

その背後に、会社名とそのロゴが掲示されています。

「やっぱり、名前が違う!なんか変、、、」

 

同行している成形メーカーの営業担当者に聞きました。

私:「会社名があなたの会社じゃないですよ。どうして?」

営業:「関連会社みたいなものです。」

私:「関連会社って、どういう関係?」

私は、疑いの気分でいっぱいです。

営業もちょっとバツ悪そうな受け答えをしてきます。

私は、しつこく問い詰めました。

 

営業:「元の私の会社の社員が独立して作った会社です」

私:「じゃ、別会社ではないですか」

営業:「そう、別会社です、、、今回

成形機が大きい(800t)ので借りているのです。」

私:「借りている?外注に出したと一緒でしょ。」

営業:「成形を担当するのは、私の会社です。

だから800tの成形機を借りるだけ。問題ない。」

私:「あなたの会社の社員がここにきて成形するの?」

営業:「。。。。」

私:「元社員の成形メーカーに外注に出してる、ってことですよね」

営業:「まあ、そういうこと、、、」

 

もちろん初めて聞くことです。

このことは誰も知りませんでした。

もちろん、この会社に発注を決めた資材も、のハズです。

 

どういうことになってるんだ?

印刷や塗装の2次加工が外注は、よくあることです。

成形を依頼しているのに、その成形が別会社?

どういうことですか?

 

これが後々、大問題に発展して行くのでした。

 

続きは、次回をお楽しみください。

 

 

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