中国ものづくり仰天話(第2話 -1)

今回は金型が勝手に変更されてしまったお話をしたいと思います。

 

私はプロジェクターの設計者でした。

自分が設計に関わった製品の量産が開始され、

1ヶ月ほどしたある日のことです。

製造ラインから連絡が入りました。

 

プロジェクターのトップカバーが閉まらなく、

製品が組み立てられないということでした。

私はこの頃中国に駐在していて、

プロジェクターの製造工場内に

設計の事務所を構えていました。

よって製造ラインは同じ工場内なので、

歩いて2〜3分のところにありました。

 

急いで製造ラインに行きました。

そのときの私の予想では、

トップカバーのちょっとした反りやバリなどで、

単に嵌合しにくくなっている程度と想像していました。

 

製造ラインに到着しました。

確かにトップカバーは完全に閉まりません。

嵌合が悪い、というような問題ではなく、

プロジェクターの内部部品が

トップカバーの裏側に当たってしまって、

これ以上閉まらずトップカバーが浮いた

状態になっていました。

 

それならば、内部部品の組み立て方に

問題があるのではないかと思い、

内部部品の確認を始めました。

 

内部部品でトップカバーに当たっている

部品はすぐに分かり、

その部品は2部品で構成されていました。

 

では、その2部品の嵌合状態が悪いのではないかと思い、

さらによく見てみると、

それら2部品はプロジェクターの

高さ方向に高くなる方向で

組み上がっているようでした。

 

大体の状況は把握できたので、

まだ組み上がっていないそれら2部品を

製造ラインから借用して嵌合を

確認してみることにしました。

 

これら2部品の説明をします。

これら2部品とはプロジェクターのランプと

その周辺部品を冷却する送風ダクトのことです。

 

ダクトの端はファンが連結されています。

プロジェクターのランプは、

1000度近くまで温度が上昇します。

ランプは、1000度以下の一定の温度で

最も効率よく点灯します。

それ以上、以下の温度ではランプの寿命が

短くなってしまうので、

常に1000度以下のある一定の温度に

保つ必要があるのです。

 

また、ランプの周辺部品もこのランプの

熱に煽られて高温になります。

ランプに最も近い部品はアルミのダイキャストや

板金で設計しており、

高温になっても問題にはならないのですが、

その外側の部品は耐熱樹脂で設計されています。

耐熱樹脂といっても250度くらいが限界です。

 

また、さらにその周辺は普通の樹脂部品です。

耐熱温度は60〜80度くらいです。

つまり、ファンから発生する風をランプ周辺に送風して、

ランプと樹脂部品を冷却する送風ダクトは

とても大切な役割を果たしている部品なのです。

 

これら2部品で構成されたダクトが、

明らかに高さ方向に高くなる方向でしか

嵌合ができない状態になっていることが、

2部品を単品同士を組み付けることによって

だいたい分かりました。

 

でも、ダクトの形状は何も変更はしていません。

部品の見た目も何も変わりません。

成形条件の何かが変更されてしまって、

見た目では判断できないレベルで形状が

変わってしまっているのか、

またバリなどの突起が発生してしまい、

嵌合しにくくなっているのか、

よく分かりませんでした。

 

いずれにせよ、2部品の嵌合部に何か変更が

あったことが推測できたので、

早速その部品の成形メーカーに行って、

2部品のどの箇所の寸法が変わったのか、

また、なぜ変わってしまったのか確認することにしました。

 

これら2部品を至急元の嵌合状態に戻さないと、

生産はストップしたままです。

もし、嵌合状態に問題のない部品が

この成形メーカーの在庫で見つかれば、

それを持って帰って生産を再開することもできます。

製造ラインの生産は長い時間止めることはできません。

急ぎの対策が必要でした。

 

プロジェクターの製造ラインの部品、

これらの部品の承認サンプル、

成形メーカーでの現在成形中の部品を比較検討して、

それらの寸法の違いを確認しました。

 

ところが、成形メーカーの成形担当者も立ち会い、

その人の証言もあり以外に簡単に原因は分かったのでした。

 

成形担当者が嵌合部分の寸法を変更していたのです。

もちろん、設計者の私たちには無断での変更です。

こんなことは、日本ではあり得ないです。

なぜ、この成形担当者は金型を

変更してしまったのでしょうか。

正確には、なぜ彼は金型担当に金型変更の

指示を出したのでしょうか?

 

この続きは次回お話しさせていただきます。

この金型が勝手に変更された理由を

理解することによって、

中国人の国民性を垣間見ることができます。

そして、これからこのような事故を防ぐ方法を

学ぶこともできます。

 

では是非次回を、お楽しみください。